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第一話 メロディ(その2)

新しもん好きのいちびり

 前回はティンパン・アレーの話をからめつつスタンダードナンバーについて書きました。今回はその続きとしてなぜスタンダードナンバーをジャズミュージシャンは好んで取り上げるのか、そこらへんを語りたいと思います。

 その前に、モダンについて語りたいと思います。モダンといえば多くの人は「ああ、焼きそばとお好み焼きが合体した...」という感じでしょうが、しかし、なぜモダン焼きと呼ぶのかよくわかりませんが…。ま、その話はさておき。

新しもん好きのいちびり 1920年代、ニューヨークとかパリとか東京とか上海とか、世界中で同時多発的にモダニズムが花咲きました。日本でいえばその時代、モボとかモガが街を闊歩したとか。このモダニズムとはなにか?これがなかなか一言でいうには難しい。エイや!と言ってしまえば、「過去の伝統とか歴史とかを断ち切り新しいものに価値を置く都市文化」というところでしょうか。こういうひといませんでしたか?いつも新しいものが売り出されたらさっそく買って粋がっている...そういういちびり精神ですね。この「新しもの好き」なモダニズムは工業化の進展に不可欠な大量生産大量消費を成立させる消費社会にふさわしい文化であったといえます。だって古いものを大切にせずに新しいもが出てきたら買ってしまうんだから。

 この時代、映画やラジオが社会に浸透し、メディアから伝達される「流行」を無批判的に受け入れた一般大衆は似たような嗜好や価値観に染め上げられ、まちに出ては百貨店とかで似たような流行の服や贅沢品を買い、似たようなものを食べ、同じような観劇や映画を見てと、せっせせっせと似たようなものやサービスを消費するようになりました。モダニズムはそういう生活を牽引する文化なのです。

 メディアが誕生することによって音楽や演劇や映画が娯楽産業として本格化するのもこの時代。とにかく大衆がよろこんでくれるような作品を、次から次へと大量生産することが求められた。そういう背景の中から作られた大衆音楽をポップスといいます。ミュージカル曲もポップスです。そういうポップスを分業で作っていくというというティンパン・アレイのようなところが繁盛したということですね。

 以上、蛇足が多すぎて前回のおさらいになっていませんが、とりあえず続けましょう。

 では今から今日の本題。


ヤングは唐揚げくんがお好き

 ポップスはなにせ大量生産ですから芸術作品のように一品生産品ではありません(そうでないのもあるけれど)。ぱっと見は違っても様式はどれもこれも似たようなもの。だが、メロディや歌詞がちょっと違う。服でいえば既製服ですね。デザインは服によって違うけど、サイズはS・M・Lとかあるけど、「私サイズ」というのはない。本来は身体に合うように服の寸法を決めるべき。なのに、なぜか現代では服の寸法に身体を合わせることになってしまっている。靴のサイズなんかそうですね。考えてみれば、なんで勝手に決められた寸法の靴履いて痛い痛いいわなあかんねん!でも、それがあたりまえになっている。

 最近の若者はトリの唐揚げが大好きですよね。例えばみんなで中華料理を食べにいったとする。おいしそうなものがいっぱいあっても、若者が選ぶのはトリの唐揚げ! あれって、コンビニとかで売ってる唐揚げくんを子供のころからずっと食べ続けてきたなれの果てで、味覚が唐揚げにしか反応しなくなっているのではないのでしょうか……と、私なんかはかわいそうだなと思ってしまうのです。食もファッションも音楽もみんな事情は同じ。私たちはメディアからの情報や企業のマーケティングによってうまいこと飼いならされてしまっているのですね。

 そんな身も蓋もない話をするとスタンダードナンバーのスィートなラブソングを聞いてもしらけてしまうのですが。まあ、そうは言いながらもとにかく多くの大衆のこころの中に、ひとそれぞれの人生のワンシーンとともにしっかと棲み着いているのがスタンダードナンバーです。


いかに美しく換骨奪胎するか問われるのがアドリブ

 ジャズでいちばんの特徴といえばアドリブ、つまり即興演奏です。これについては前にもちらっと書きましたが、即興だからといってその場の思いつきで勝手気ままに演奏しているわけではありません。

 通常ポップスでは、というかクラシックでも民謡でもいっしょかもですが、ざっくりといえばリズムと和音という下部構造があり、メロディはその上に乗っかっている。上部構造のメロディの流れに合わせて、下部構造の和音が一定のリズムに乗って変化しながら、メロディとともに聞こえてきます。

 ジャズのアドリブというのは、ここでいうところの下部構造をそのままにし、上部構造であるメロディをとっぱらってしまって、メロディを組み立る。つまり換骨奪胎してぜんぜん違うメロディをその場で組み立てて音にして遊ぶということです。


同じ土俵だから楽しめる

 ジャズでは演奏中、メロディや和音の流れがどのミュージシャンでも心の中で鳴っています。アドリブはその心の中の音に耳をすませながら組み立てて演奏するという感じです。時々、心の中でそれがなっていないままアドリブしているミュージシャンもいる。そういうアドリブは「歌っていない」。聞いていておもしろくない。

 では、鑑賞者はどうでしょうか。鑑賞者は別にそんなものを心の中で追いかけなくてもサウンドには影響はありません。でも、アドリブを楽しみたいのなら話は別。

 スタンダードナンバーなら、ミュージシャンだけでなく鑑賞者のこころのなかにも棲み着いています。だから心の中で歌うことができる。おなじみの曲をミュージシャンの演奏といっしょになってこころの中で歌いながらアドリブを聞くと、面白さがぜんぜん違ってきます。それまでなにか無機的な音の羅列のように聞こえてきたものから、メロディーが立ち上がってくる。

 そういうりくつはミュージシャン達はなんとなくわかっているから、できるだけ多くの鑑賞者が知ってる曲をということでスタンダードナンバーを演奏するんですね。そうすると、演じる方も聞くほうも一体感がでてくるじゃないですか。



スタンダードナンバーを演奏する理由をもうひとつ

 ジャズの中でもモダンジャズはそもそも鑑賞者のためではなく、ミュージシャンたちが集ってアドリブを競うために生まれた格闘技的性質を持った音楽です。格闘技は本番一本勝負だからこそ意味がある。だから打ち合わせなんかできればやりたくない。そういう時に好都合なのが、曲名だけ分かれば即合奏できるのがスタンダードナンバー。ジャム・セッションの場ではしばしばスタンダードナンバーが演奏されるわけですね。

 最後にスタンダードナンバーの代表格、「枯葉」を紹介します。酷暑が一段落しそうな今日この頃にこの曲を聴くと心に染み入ります。この曲は1945年にジョゼフ・コズマが作曲したシャンソンです。1949年に英語の詞がつけらて爆発的にヒットしました。誰でも知っている名曲です。

まずyoutubeで見つけた歌ものをひとつ。歌を聞かせる演奏です。若いふたりがこんなシブい曲を演奏するものなかなかいい!


 次はアドリブを聞かせる演奏。エディ・ヒギンズのピアノトリオです。エディ・ヒギンズが枯葉のテーマを弾いた後、アドリブに移ります。ピアノの次はベース、最後にドラム。そして再びテーマに戻ります。あなたもこころの中で枯葉を歌いながら彼らのアドリブを聞いてみてください。こういうシブい年寄りになりたい!

ではまた。

Copyright 桑島 紳二(大阪商業大学教授)
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